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2016/11/18

アンソロジー本のおすすめ

アンソロジーとは主に異なる作者を集めた本を指します。一冊の本で何人もの作家の作品を楽しめるアンソロジーはとても贅沢で画期的です。

今回はそんなアンソロジー本のおすすめを紹介します。

静かで奇妙なストーリーの数々『ものがたりのお菓子箱 日本の作家15人による』

谷崎潤一郎、有島武郎、小川未明、中原中也、梶井基次郎、川端康成、三島由紀夫、星新一、中島敦、小川洋子他5名の短編をまとめた不思議なアンソロジー。

日本近代文学から現代作家まで幅広い作家を網羅しています。一つ一つの物語に入る前に、それをイメージしたスイーツの名前がついていて、それがとても素敵です。

全体的にメルヘンでロマンチックな話が多いです。特に印象的だったのは星新一さんの『ぼっこちゃん』。バーのマスターが作った美人ロボット”ぼっこちゃん”は静かな話題となり、バーには彼女に魅了されるお客が後を絶たない。

ある日、一人の若い青年がぼっこちゃんに恋をするが、ついにはバーに通うお金もなくなり、ロボットのぼっこちゃんに「一緒に死のうか」と語りかける…。

ミステリアスで可愛らしいぼっこちゃんと最後のシュールな終わり方がこのアンソロジーを代表するような雰囲気だと思いました。静かで美しいお話が好きな方におすすめです。

女性作家による官能的なアンソロジー『invitation』

江國香織、小川洋子、川上弘美、桐野夏生、小池真理子、高樹のぶ子、高村薫、林真理子によるアンソロジー。

“invitation”は日本語で招待という意味です。その名の通り、日常から少し離れた非日常への招待のような文章ばかり。

中でも際立っていたのは高村薫さんの『カワイイ、アナタ』。交番勤めの主人公が勤務中に先輩から聞いた昔話の話です。

ある日、財布を拾った平凡な中年男が交番を訪ねてきた。男は財布を拾ったものの、持ち主が現れなかったため、その中に入っていた3万円を受け取ることになりました。

男はその財布を拾った経緯を話し始める。男は会社の帰り、人通りの多い横断歩道をタッタッタと走る一人の女の子に目が留まった。

その女の子のスラリとした足やひるがえるスカートが男の目から離れない。その女の子についていくが、もう中年になっていた男にはついていくのもきつい。

すると、女の子のバッグからがま口の財布が落ちた。女の子はそれに気づかず走り去っていってしまった。男はその財布を拾い、交番に届けたのでした。またその女の子に会えることを期待して…。

その日の男の日記は異様なものだった。書き出しは「カワイイ、アナタ…」それから毎日のように女の子の姿を思い浮かべては、日記に「カワイイ、アナタ…」と想いを綴る日々。

そしてついにまた同じ場所で歩いている同じ女の子を見つけた男は…

最初から最後まで狂気の連続でした。誰かに恋をするということは全然不思議なことじゃないのに中年男が女の子(歳は十七、八)を好きになるとじんわり恐怖を感じるのはなぜでしょう。

平和でそれなりに順調な人生を歩んでいた男は財布を拾ったことをきっかけに、違った世界を生きることになったという話です。まさに財布が“inivitation“招待状だったのかもしれません。

北村薫が選ぶ日本、海外のシュールな話『謎のギャラリー 特別室』

都井邦彦、別役実、南伸坊、ジョン・コリア、クレイグ・ライス、他7名によるアンソロジー。

北村薫さんは日本の小説家で主にミステリー小説を書かれています。ご自身が書かれる他に評論することも多く、ミステリー小説についての知識はとても豊富です。

このアンソロジーには猫の話が2つ出てくるのですが、北村さんはもしかしたら猫好きなのかもしれませんね(笑)

そのひとつに別役実さんの『なにもないねこ』という話があるのですが、それがとても素敵です。

“なにもないねこ”はその名の通り、なにもない猫です。目も口も頭も胴体もしっぽも、なにもない猫でした。誰もそこに猫がいると気づかないので、猫はずっと独りぼっちでした。(母猫にも産んだことすら気づいてもらえない。)

年をとった猫は自分でお墓をつくることにしました。せめてお月さまを見てから死にたいと思い、屋根の上に上がるのですが、あいにくの雲で全然月が見えない。

ついには雨も降りだしました。翌朝、目をさました女の子が屋根の上を見るとぽっかり猫の形をした雨に濡れていない部分を発見します。

そこで初めて猫は存在を知られることになったという話です。(そのあと女の子はちゃんと猫のお墓をつくってあげました)

全文ひらがなで書いてある童話のような話で、切ないけどとても美しい話だと思いました。この他にも北村薫さんが選んだ短編ミステリーなどが集められています。マイナーな作家さんの話が読みたい方におすすめです。

恋愛とチョコレートは切っても切り離せない関係!?『甘い記憶 6Sweet Memories』

井上荒野、江國香織、川上弘美、小手鞠るい、野中柊、吉川トリコの人気女性作家6人による恋愛アンソロジー。

ひとかけらのチョコレートを食べたとき、思い出すのはどんな記憶ですか?ほろ苦い失恋の記憶、とろけるような甘い思い出etc.

味覚と記憶は密接に繋がっていることがよくわかるアンソロジーでした。女性作家が書かれた小説だけあって、とても柔らかな読み心地です。

寝る前にベッドに入ってから読むなんてのもいいかもしれません(チョコレートが美味しそうなのがちょっとつらいですが 笑)

特におすすめなのは野中柊さんの『二度目の満月』

三十代の女性がbarで出会った男性に恋をするちょっと大人な恋愛短編です。そのbarで出てくるのがこのアンソロジーのテーマである”チョコレート”。

主人公・由布子が恋をする男性・安達は甘いものが好き。特に好きなのはウイスキーと一緒に味わうショコラ。

モルトの芳醇な香りとカカオの濃厚な風味が混ざって、とても美味しいと由布子は教わります。それから由布子にとって甘いものは彼を思い出すアイテムに。

しかし、二人はbarで何度か偶然に会うだけの関係で連絡先も知らない、結婚しているのかどうかもわからない。大人の女性にとって新しい恋を始めることはとても勇気がいることなんですね。

チョコレートの甘いビターな雰囲気にぴったりなお話です。

強い女の人は好きですか?『ウーマンズ・ケース』

元来、女性はか弱く守るべきもの、可愛らしくあるのが一番であるのが大切とされてきました。しかしそんな女性たちの中にも驚くべきほどのタフネスを持ち合わせた人が多いのも事実です。

このアンソロジーを編集したサラ・パレツキーが尊敬する女性作家の言葉にこんなものがあります。

わたしには、
価値などないのかも。あなたのいうとおり、
こんな仕事をする価値は。女の魂に
野心はあっても創造はないのかも。でも夢を持ちたい。
可能性をためしてみたい。
    …わたしは
自分の芸術を愛するわたしは、自分の背丈に合わせて
それを低めようとは思わない。自分の芸術を愛しているから。
認めてほしい、女にも芸術を愛する心があることを。
何かのために真実の愛を捨てるのが
女らしいといわれては…話にならない。

これは19世紀に詩人として活躍したバレット・ブラウニングの言葉です。

当時は女性が仕事を持ったり、芸術家として活躍することはあまり好感を持たれることではありませんでした。

バレット・ブラウニングは詩人を始める上で同じ女性である師を探し求めましたが、見つからなかったので自分が女性芸術家にとっての“祖母”になると決心したそうです。

それからは女性の地位と社会的な向上を芸術や文章を通して主張しました。このアンソロジーでもそんな志を持った女性主人公が活躍します。

女性が読むと胸がスッとするような爽快な気分になると思います。

まとめ

アンソロジーは一つの本でたくさんの作家が参加しているので、読んでいていつも新鮮で飽きることがないです。

それに好みの作家さんを見つけ出すいいきっかけにもなります。主に短編で短い時間で読めるものが多いので、通勤やちょっとした時間に読んでみることをおすすめします。

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